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【考察】AWS の利用シェアが高い理由・普及した理由

技術営業部の大原です。

ビヨンドではマルチクラウドに対応しているので、AWS 以外でも Azure や GCP など、様々なクラウド環境を用いたプロジェクトや案件を手掛けることが多いですが、AWS を用いたプロジェクトや案件の導入実績が一番多かったりします。

日本国内・世界的にも AWS の利用シェアが高い状態ですが、「そもそも何故、ここまで AWS が普及したのか?」というのがあります。「クラウドコンピューティングという概念が登場した黎明期の時代から、画期的なインフラサービスを提供してきたから」という理由だけでは、トップシェアで維持し続けるのは難しいと思います。

本記事では、主に日本国内からの観点になりますが、「AWS がここまで普及できた理由」について考察していきます。

まずはデータとして

クラウドサーバー・インフラのシェアのデータ

2023年8月頃の Publickey の記事ですが、依然 AWS の利用シェアは1位となっています。今後のランキングはどうなるかは分かりませんが、Azure の追い上げも凄いですね。

https://www.publickey1.jp/blog/23/awsgoogle_cloud20232synergy_researchcanalys.html

Google キーワードプランナーのデータ

2022.1 ~ 2023.11 の期間で、Google 検索エンジンにおける、検索キーワードのボリュームと予測のデータを、キーワードプランナーを使って確認してみました。

キーワード検索で連想させる、類似の「クラウド」や「サーバー」も含めてみましたが、圧倒的に「AWS」のキーワードでの検索ボリュームが多くなっています。

この見方では「クラウド」よりも、「AWS」のキーワードで検索される機会が多いことが分かります。なので、一般的には、「クラウド = AWS として認識されている」と考えても差し支えはないでしょう。

クラウドコンピューティングの概念が無かった時代

システムやアプリケーションを稼働させるためにはサーバー環境が必要ですが、現在のようなクラウドコンピューティングの概念が無い時代は、データセンターが提供するホスティングサービスを利用したり、サーバー・ネットワークのハードウェア、またはソフトウェアを購入し、自社内のサーバーラックに設置して、オンプレミス(物理的)で稼働させるということが一般的でした。

ただ、ホスティングやオンプレミス(物理サーバー)を利用する場合、システムやアプリケーションの安定稼働を想定した、必要なサーバーの性能・容量などのサイジング(事前見積もり)は難しいところがあります。

システムやアプリケーションの安定状況によって、もしサーバーの性能・容量が足りなくなっても、すぐには用意できないため、機会ロスのリカバリが遅くなったり、逆にサーバーの性能・容量が過剰であると、余分なインフラのコストが発生してしまうなど、事前のサイジングはシビアなものでした。

また、オンプレミス(物理サーバー)であれば、ハードウェアの老朽化による障害・故障への復旧対応や、ハードウェアのメーカー保守が切れた場合には、ハードウェアのリプレースも検討しなくてはいけません。

ITベンダーの観点では、オンプレミス(物理サーバー)の要件が求められるプロジェクトの案件があっても、そのITベンダーの経営状態によっては、サーバーを調達する際のリースや与信が通らず、その案件自体に参加できない、というようなケースもありました。

AWS がここまで普及できた理由

AWS が普及できた理由として、上記の図のように、これらの様々な要素や組み合わさり、継続的にサイクルすることで、普及が拡大していく仕組みが出来上がっているのが要因と考えられます。

ここでは、筆者の私見も交えながら考察していきます。

① 画期的な概念と技術

AWS のクラウドインフラを利用するにあたり、「初期費用が不要で、必要なときに、必要な分だけ使う」という概念が画期的でした。

AWS の技術としても、例えば、EC2 や ELB・Auto Scaling などの機能を組み合わせることで、そのインフラ上で稼働するアプリケーションの耐障害性を高めたり、S3 や RDS のようなマネージドサービスを利用し、システムの可用性を高めたりなど、AWS を利用するユーザー自身で、自由にインフラの構築や設定ができるようになりました。

AWS のアーキテクチャを構成する、サーバーやネットワークなどのハードウェアの管理は AWS が実施するため、もしハードウェア側で障害や故障が発生したとしても、ユーザー自身がハードウェア自体のメンテナンスをおこなう必要がありません。

また、PC・インターネット環境・支払い用のクレジットカードさえあれば、外出先や自宅からでも、インフラの構築や設定をおこなうことが容易になったので、ITベンダーやエンジニアのビジネススタイルも大きく変化しました。

※ ちなみに最近では「サーバーのハードウェア筐体の実物を見たことがない」というエンジニアも増えたと聞きます。

② ブログやメディアでの発信

AWS が日本で普及する以前からも、インターネット上のブログやメディアで、ITサービスの紹介や技術情報の記事はありました。しかし、特にサーバーやネットワークなどのインフラ関連の情報は、現在の状況と比べると、そこまでインターネット上で情報は多くなかった気がします。

AWS などのクラウドインフラの技術が登場する前は、サーバーやネットワークなどのインフラ関連のことをしっかり学習したいとなっても、インフラ系の企業に就職して経験しないと、体系的な知識・技術を習得するのが難しかったり、個人だけではハードウェア筐体の購入に多くの費用が掛かり、敷居が高く感じることもありました。

その後、AWS のような技術が登場したあたりから、スマートフォンの登場や SNS の普及、Web の技術進展などのタイミングも相まって、企業や個人でも、インターネット上で情報を発信できる手段・機会が増えました。また、PC・インターネットの環境があれば、個人でも簡単に AWS に接続して、検証的に触りながら全体的なインフラ設計・構築などができるようになり、人によっては AWS を独学で学習しながら、インフラ関連の知識・技術を深めていった人もいます。

それに伴って、インフラ関連の技術ブログを発信しているITベンダーやメディア媒体も、当時よりもかなり増えたのではないでしょうか。特に AWS に関連する情報量のボリュームは、他社クラウドと比較しても圧倒的に多く、例えば「AWS のことを調べたい」ということがあれば、AWS の様々な情報に簡単にアクセスできる時代になっています。

なので、これだけのインターネット上に情報が溢れていれば、自然と目に留まる機会も多いので、エンジニアであれば「まずは触ってみたい」と思うのが普通ではないでしょうか。

③ 学習や資格の教材が豊富

AWS の知識や技術を学習する際、AWS 技術や認定資格の書籍などの教材が多数あります。最近では、その他のクラウドを学習するための教材も増えましたが、それでも依然として AWS の方が幅広く提供されている傾向があります。

オンライン学習としても、AWS 公式で配信されているものでは AWS Black Belt、その他ではオンラインマーケットプレイスの Udemy や CloudLicense がよく利用されており、AWS のことを体系的に学習できる手段が膨大になります。

仮に、AWS 以外のクラウドに関する知識・技術を学習する場合でも、「AWS のサービスを基準に考える」ことが多いです。例えば、AWS 以外のクラウドで、RDS のようなマネージドデータベースを知る機会があったとして、「あー、RDS のみたいなやつか」と、きっと頭の中で置き換えてるはずです。(これは、プロジェクトや案件のときでも同じ発想です)

では「学習や資格の教材が豊富であることが、なぜ AWS の普及に繋がるのか」という点でも、下記 A~D のサイクルが継続的に循環していることで説明が付きます。認定資格の受講者が増加することによって、AWS を用いたプロジェクトや案件の増加にも拍車を掛かっていると考えています。

・A:教材やツールが豊富なため、学習しやすい環境にある
・B:豊富な種類の認定資格制度があるのため、モチベーションが向上する
・C:認定資格などでスキルを証明することでキャリアアップに繋がる
・D: プロジェクトや案件には、知っている AWS を使いたい
※ 以降、同じサイクル・・・

なお、AWS などのクラウド系の資格を取得していると、IT企業への就職が有利になったり、所属している企業から資格報奨金が提供されるケースもあります。

▼ オススメの AWS 認定資格勉強用の書籍 ▼

AWS認定資格試験テキスト AWS認定 クラウドプラクティショナー
AWS認定資格試験テキスト AWS認定ソリューションアーキテクト - アソシエイト
AWS認定資格試験テキスト&問題集 AWS認定ソリューションアーキテクト - プロフェッショナル

④ パートナー同士のエコシステム

AWS のパートナープログラムおよびエコシステムでは、AWS を導入・活用する企業や組織をサポートするために、コンサルティングパートナー・テクノロジーパートナーなどの様々な種別に分かれています。AWS の認定を受けているITベンダーも多数存在するため、その他のクラウドのパートナー数と比べても、AWS のパートナー数は多く感じます。

これには、クラウドコンピューティングという概念が登場した時代から、AWS 本体と一丸となって、 AWS の普及活動を続け、高い業績や技術力を認められた「メガパートナーの存在」が大きくあります。このメガパートナーの存在が、日本における AWS のクラウドインテグレーションの金字塔となり、その他のITベンダーも追随していきました。

その一方で、日本では AWS が普及する前から、ITベンダー自体が多く存在します。これには、日本特有のIT産業の構造が起因していると考えられており、現在でも SIer や ディストリビューター(IT商社)などの影響力が強くあります。その SIer などが、元々から多くの顧客を抱えているため、先述のメガパートナーとの相乗効果もあり、AWS の普及が進んでいったと考えられます。

ただ、AWS 自体が提供するサービスは「200種類以上」とかなり多いので、これだけの AWS のパートナーが存在してても、プロジェクトや案件によっては、不得意な技術の分野であったり、作業リソースの問題など、その AWS パートナー1社だけでは対応できない場合もあります。そのような場合には、AWS のパートナー同士のエコシステムが活用され、パートナー企業間で協業という形で、プロジェクトや案件を遂行していくこともあります。

あと、ソフトウェアやセキュリティなどのツールを開発するサードパーティー企業が、自社で開発したサービスを AWSが提供するマーケットプレイス(AWS Marketplace)に公開し、AWS を利用する際のオプションとして販売されてるという仕組みも、パートナー同士のネットワークが広がる要因となります。

ちなみに、大半のサードパーティー企業は、まずは AWS と連携対応し AWS Marketplace に公開・販売することが多く、そこで実績を蓄えてから、その他のクラウドのマーケットプレイスに展開していくというケースがほとんどです。

⑤ 様々なイベントとコミュニティ

AWS が公式に開催している大型イベントは、毎年に開催される AWS re:Invent や AWS Summit が有名ですが、その他にも AWS Dev Day や AWS Serverless Day など、様々な AWS の技術分野をテーマとしたカンファレンスが開催されています。

それぞれのイベントやカンファレンスを通じて、AWS の最新情報やベストプラクティスの共有・技術セッション・ネットワーキングの機会も多くあるため、AWS を扱うユーザーやファンを継続的に増やしていく仕組みがあります。

その一方で、AWS のユーザーや関係者が有志で運営されている、JAWS-UG(AWS Users Group – Japan)というITコミュニティも存在します。JAWS-UG が運営する AWS の勉強会は、オンライン・オフラインを問わず定期的に開催されており、その開催数・参加者数も、日本のITコミュニティとしてはトップクラスです。

JAWS-UG のコミュニティには、AWS に興味がある人であれば、知識・技術のレベルを問わず、誰でも自由に参加できます。参加する人の職種も様々で、エンジニアやディレクター・マーケティング・セールス・フリーランス・学生など、多岐にわたります。

JAWS-UG では、主に AWS のユーザーや中心となって勉強会を企画し、技術のセッションに登壇し、AWS の知識や技術を発表するのがメインです。ユーザー目線での情報を発信・共有することで、ユーザーならではの見解を示したり、AWS ユーザー同士で交流できる場にもなっています。

この JAWS-UG の存在も、日本での AWS の普及に大きな役割を担っていたと感じます。例えば、AWS を提供している社員(いわゆる ” 中の人 ”)だけで、そのサービスの魅力を発信したとしても、どうしてもプロバイダー・メーカー側からの目線になるので、営業臭が醸し出されるのは否めないところです。

しかし JAWS-UG では「ユーザー目線で AWS の情報を発信・共有する」という、実際に AWS を利用しているユーザー同士で、AWS の有効活用や技術事例・アイデアなどの、インプットとアウトプットを繰り返すことで、勉強会に参加している同じ AWS ユーザーからも共感を得ることができ、説得力を訴求できたのがポイントです。

ちなみに、勉強会の参加者にはITベンダーだけではなく、一般企業に所属するエンジニアも多く参加しています。その企業に所属するエンジニアが社内システムを内製化するために、AWS のようなクラウド技術を学び、また様々な業界のエンジニア同士で、交流の輪が波及していった効果もあると思います。

⑥ 豊富な導入事例・実績

いまや、サーバーやクラウドなどの IT に詳しくない方でも、「AWS」という用語自体は聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。

そんな有名な AWS でも、日本で最初から AWS の普及が順風満帆に進んだようでは無かったようです。日本ではITベンダーや SIer の影響力が強く、また、ユーザー企業からも「海外発祥のインフラ?」「従量課金で毎月の請求が変わる?」「何かあったらどうするの?」という反応もあり、当時は「AWS の良さが分かる、一部の人だけ使う」ような状況だったそうです。

そのような中で、2011年に東日本大震災が発生する出来事がありました。この震災により、多くの企業がオンプレミスのデータセンターやサーバーを損失し、事業継続が困難になりました。たとえ無事であった地方自治体のサーバーやWebサイトであっても、情報収集のためにアクセスが集中し、接続が困難になるという事態に見舞われました。

この状況を打破するべく採用されたものが、AWS などのクラウドコンピューティングです。このような状況から、すぐに新しい物理的なインフラ基盤を準備するのは不可能ですが、クラウド上に存在する AWS のインフラ基盤を活用することで、すぐにWebサイトやシステムの復旧作業に取り掛かることができました。

このような一連の出来事や事例をキッカケに、クラウドを利用することによる利便性・拡張性・即効性などが証明され、また同年の2011年には、AWS 東京リージョンが開設されたこともあり、日本でも AWS の導入が急速に拡大していきました。

また、AWS などのクラウド導入が進んでいく中で、例えば、キャンペーンサイトなどの期間限定で公開するWebサイトや、急激なアクセススパイクの可能性があるソーシャルゲームなど、クラウドを活用することで親和性が見込めるプロジェクト、案件の多様化も進んでいきました。

AWS では企業や組織規模の大小を問わず、このような導入事例・実績のケースが多数あるため、「この案件の事例は自社でも活用できそう」という共感であったり、「事例が事例を呼び込む」というような、ある種クチコミのようなサイクルが出来上がっているのではないでしょうか。

まとめ

以上、AWS が普及できた理由を考察してみました。

AWS の普及のおかげで、IT業界にゲームチェンジが起こったのは間違いないです。

もちろん、色々なタイミングや転機もあったかと思いますが、つまるところ「AWS を使ってもらおう」というビジネスのスキームとマーケティングが成功した結果なのではと感じます。

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この記事をかいた人

About the author

ohara

通信業界で法人向けのNWサービス・OA機器・グループウェアなどの、IT製品の導入を担当するセールスとしてキャリアをスタート。

その後、SIer系のデータセンター事業会社で、物理サーバー / ホスティングサービスのプリセールスエンジニア、SaaS型のSFA / CRM・BtoB向けのEコマースなどのカスタマーエンジニアを経て、現在のビヨンドへ入社。

現在は、アジアのシリコンバレー中国・深圳に駐在して、中国ドラマと billbill を見るのが日課です。

所有資格:簿記二級